One〜幸せひとつ〜
PM:12:58.
帝丹高校、学生食堂。
「あっ、蘭! 危ない!!」
食堂に広がる園子の声。
その直後。
「え? きゃあ!!」
べちゃ。
ガシャーン!!
「きゃああああ、ごめんなさい〜っ」
蘭の制服のカッターシャツに、思いっきりかけられたカレー。
食堂のイスの脚に躓き、蘭に倒れ掛かってきた後輩が、涙目で謝る。
どうやら、カレーの入ったトレイをもったまま、転んだらしい。
「ごっ、ごめんなさいっ・・・制服が・・・」
「ああ、うん。大丈夫だから。あなたは? 怪我はない?」
相変わらず優しい蘭は、自分の制服に付けられたカレーのシミより相手を気遣っている。
「はい、私は大丈夫です・・・それより、先輩の制服が・・・ここは私が片付けるので、先輩は制服を洗ってきてくださいっ」
「え、でも・・・」
目の前には、転がったトレイとプラスチックのお皿。
そして散らかったカレー。
「いいよ、手伝うよ。これ、片付けるの大変でしょ?」
「駄目です! 早く洗ってこないと、取れなくなっちゃいますよっ」
「そうよ、蘭! この子の言うとおり、片付けは任せて、とりあえず制服洗ってこよ!」
渋る蘭の手を引っ張り、園子は蘭を連れて食堂を出た。
「とりあえず、蘭は保健室に行ってて! 私、着替えを持ってくるから。ロッカーに体操服入ってるよね?」
「え・・・今日、体育がないから、体操服持ってきてなくて・・・園子に借りようと思ってたんだけど・・・」
「ええ? 私も体操服、持ってきてないわよっ。どうするのよ、着替え?」
「ど、どうしよう・・・」
困り果てた二人。
そんな二人の上から、バサっと大きな何かが振ってきた。
「きゃっ」
蘭が、頭の上にかけられた布を剥ぎ取ると。
それは自分の物よりもはるかに大きな体操服。
左胸に『工藤』の刺繍。
「え?」
後ろを振り向くと。
「新一っ!」
自称幼馴染の工藤新一が立っていた。
「それ、着てろ。でかいけど、無いよりましだろ?」
顔を会わせれば、ついつい憎まれ口を叩いてしまう、そんな二人だけど。
それでも新一は、蘭にとってはスーパーマンみたいなもの。
こうやって、些細なことでもいつも助けてくれる。
「あ、ありがとう・・・」
蘭はお礼を言うと、貸してもらった大きな体操服を握り締めて保健室へ向かった。
5時間目。
左胸に『工藤』の刺繍が入った、だぼだぼの体操服を着て教室にやってきた蘭。
それを見て、「工藤さーん」と冷やかすクラスメイトと。
自分の体操服を着た好きな人の姿に、ちょっとだけ満足そうな表情の新一。
「・・・相変わらず、抜かりないわね」
新一の表情を見た園子が険しい顔で、ポツリと呟いた。
自分の体操服を着せたことによって、『蘭は俺のものだ』と周りに教え込んでいるのだ。
―――手を出すなよ
と。
放課後、小さな路地に並ぶ、二つの影。
「今日・・・ありがとう。助かった」
新一の隣で、蘭が小さくお礼を言う。
「どーいたしまして」
「でも、ちょっと恥ずかしかった」
「なんだよ、文句あんのか?」
「いや、そうじゃないけどさ」
「そんなに俺の体操服がイヤなら、脱いでもらいましょうか? 工藤さん?」
「ばかっ、何言ってるのよ!」
「バーロぉ。冗談だよ」
そう言うと、すたすたと歩き出す。
夕日が新一の真っ白いカッターシャツを、オレンジ色に染めて少し眩しい。
「新一。体操服、ちゃんと洗って返すね」
「いーよ、別に・・・」
―――っつーか、むしろそのまま返して欲しいような
なんて馬鹿げた考えは、頭の中だけにとどめて置いて。
ちらりと後ろを振り返って、蘭を見る。
相変わらず、ぶかぶかの体操服。
その姿が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「何よぉ! 何が可笑しいのよっ」
「別に。小さいなーと思ってよ」
「新一が大きいのよ」
「そうかぁ? 普通だよ、普通」
そう言って、楽しそうに笑う。
「それよりさ。お礼に何か晩飯作ってくれんだろ?」
ニヤリ。
イタズラな笑みを見せる。
「わかったわよ。何がいい?」
「んー。お任せ。とりあえず、買い物行こうぜ。冷蔵庫、すっからかんだからよ」
そう言って、どさくさにまぎれて、蘭の手を握った。
思っていた以上に小さくて、細い手。
ドキドキする心を抑えて、何も無いかのように蘭の手を引いて歩き出す。
「腹減った! 急ごうぜ」
なんて言って、誤魔化しながら。
こうして今日も工藤新一は、小さな幸せをひとつ、手に入れた。
でも、実は蘭も。
新一と同じくらい幸せを感じているなんて。
それを新一が知るのは、もう少し先の話・・・かな。
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新一の幸せ=蘭の幸せ。
片思いだからこそ、こんな些細なことでも幸せになれるんだろうなと思います。
っていうか、ただ、新一の体操服を蘭に着せたかっただけなんだけどね(^^;
ちょっと・・・萌えません?
彼シャツ!!