nine〜ラッキーナンバー〜
いつも、朝起きて何気なく付けているテレビ。
いつもはニュースを付けてるのに、今日はたまたま違ってた。
日売りテレビの早朝ワイドショー。
何の興味もない話題に、チャンネルを変えようとした時だ。

『さて、CMの前に今日のおうし座の運勢です!』

占いなんて、運勢なんて。
興味もなければ、信用もしていない。
いつもは迷わずチャンネルを回すのに、なぜか今日は回さずに聞いてしまった。
自分の星座の運勢を。

『おうし座のあなた! 幸運が身近にあるとき。特に午後から運気が上昇するでしょう。思いのままに動いて大丈夫です!今日のラッキーカラーは青! ラッキーナンバーは9です』

別に占いなんて信じない。
運勢なんて興味がない。
サラリと聞き流し、すぐにチャンネルを変えた。




そんな、朝のテレビの事なんか、すっかり忘れてしまっていた午後。
5時間目はHR。
「今日は特にすることもないしー・・・席替えでもしようかと思うんだが」
やる気のなさそうな担任の言葉に、クラスのやつ等は「よっしゃー」と、歓声を上げる。
「それじゃ、学級委員。今から急いでくじを作ってくれ」
約10分後。
学級委員が作ったくじを順番に引いていく。
男子は青い紙のくじ。女子は赤い紙のくじ。
男女、それぞれ順番にくじを引いていく。
j自分が引いた番号と、黒板に書いてある番号の位置を確認して騒ぎ出すクラスメイトたち。
その様子を、まるで他人事のように、頬杖をついて眺めていた。
ある人物がくじを引くまでの話だが。

サラサラの長い黒髪をなびかせて、歩く。

学級委員の園子と談笑しながらくじを引き、自分の番号の位置を確認する蘭。
そして、すぐにくじをたたみ、ポケットに入れて、今の自分の席へ帰っていく。
表情を一つ変えず、全く無反応。
あいつ・・・どこの席になったんだ?
相変わらず頬杖をついたまま、横目で蘭を追っていく。
席替えなんて、どーでもいい。
席替えごときで、こんなに騒ぐやつらの気がしれねー。
そうだな・・・まぁ、一番前の席にさえならなきゃいいや。
席替えで思うことなんて、その程度。
あと。
できれば、蘭の隣がいいかな。
と言うか、蘭の隣がいい。
絶対、蘭の隣がいい。
そーいや、1学期の間は、蘭の隣の席になったことねーよなぁ。
一番近くて斜め後ろの席になったくらいか?
まぁ、それでもいいけど。
隣だったら、一緒に週番ができるんだよな。
蘭の隣にならねーかな。
っつーか、なりてーな。

「おい、工藤?」

名前を呼ばれて我に返る。
「・・・え?」
「え、じゃねーよ。次、お前の番だぞ」
後藤にそう言われ、くじを引く順番が回ってきたことに初めて気づく。
「あ、わり」
慌ててくじを引く。
青い紙を開くと。

―――9―――

占いなんか。運勢なんか。
信じない。

けど、今朝のテレビを思い出してしまう。

ラッキーカラーは青。ラッキーナンバーは9。
「ふぅん?」
さて? 俺はどこの席になってんだ?
黒板を見てみると。
―――げ! 一番前じゃねーか
俺が引いた9の位置は、ど真ん中ではないが、窓際から2番目の一番前。
何がラッキーナンバーだ。
ラッキーでも何でもねーな。
小さくため息をついて、席に戻った。
全員がくじを引き終わり、席を移動する。
一番後ろになった人が、嬉しそうに移動し、仲のいい友達と近くになった人は、手を取り合って喜んでいる。
そんな人たちをさっさと通り抜け、一番前の席に着くと、どさっと荷物を置いてそそくさと座る。
一番前かよ・・・ついてねー。
何がラッキーナンバーだよ。
気だるそうに頬杖をついたまま、ざわめく教室を見渡す。
あいつ・・・どこだろ。
もちろん、俺が探しているのはただ一人。
蘭。
そりゃ、好きなやつの席を把握しておきたいって思うのは、当然のことだろ?
でも、ターゲットは見当たらない。
あいつ、どこだ?

ガタン。

左隣の窓側の席から音がした。
「そんな真剣な目で教室眺めて・・・誰か探してるの?」
後ろから聞こえてきた声は、愛しい声。
振り向くと。
「隣だね」
と、微笑む蘭。
「あ、ああ・・・」
不意打ちの嬉しすぎる出来事に、思わず間抜けな声。
カタン。
静かな音を立てて席に座ると。
「まだ暑いね。窓、開けていい?」
と、たずねてくる。
「ああ、いーけど」
そう答えると、蘭は自分のすぐ隣の窓を開けた。
その瞬間、窓から入ってくる生ぬるい風。
その風にあたり、さらさらの長い髪がなびく。

思わずドキっとした。

これから毎日、蘭のこんな綺麗な横顔が独り占めできるんだと思うと、顔がにやけてしまう。
そんな緩んだ口元をきゅっと引き締めて。
それでも、蘭を見つめる視線は熱いまま。 
その視線に気づいたのか、不意に蘭がこちらを見る。
ドキ。
視線がぶつかる。
一瞬、蘭が頬を赤く染めて目を逸らす。
「な、何よ・・・じろじろ見ちゃって」
「別に、何でもねーよ」
さわさわと気持ちいい風が吹く。
「じ、じゃあ、そんなにじろじろ見ないでよー」
「みっ・・・見てねーよっ」
かあっと、自分の顔が熱くなるのが分かった。
慌てて視線を逸らし、蘭とは反対方向を向いて頬杖をつく。
また、心地よい風が二人を通り過ぎていく。
ふと視線を感じて、また蘭の方を向くと、蘭と目が合った。
「んだよ。オメーだって、こっち見てるくせに」
「みっ、見てないわよ!」
「顔赤いぜ? 俺の隣でそんなに嬉しいか?」
冗談めかして言ってみる。
「ばかっ。そんなわけないでしょ!」
相変わらずの真っ赤な頬で、力強く否定する。
「そっちこそ。本当は私の隣で嬉しいんじゃないの?」
次は蘭が俺に同じ言葉を返してきた。

―――特に午後から運気が上昇するでしょう。思いのままに動いて大丈夫です!

ふと思い出した、今朝の占い。
占いとか、運勢とか・・・信じない。そんなのに頼りたくない。
けど。

俺は、蘭の言葉に何も答えず、鞄の中にある適当なノートを取り出すと、一番最後のページを破り取る。
そして。
その紙切れのど真ん中に殴り書き。



『オレは蘭の隣で嬉しい』



くしゃくしゃっと軽く丸めて、蘭の机の上に投げ捨ててやった。
いきなり机に投げ捨てられたくしゃくしゃに丸められた紙を見て、むっとした表情を見せる蘭。
「何よっ、もう」
と、言いながら、その紙を広げる。
頬杖をついたまま、じっと蘭の反応を見守る俺。
紙に書いてある俺の正直な気持ちを見た瞬間。
ぼっと、顔が真っ赤になる。
そして、驚いた顔で俺を見た。
その反応が可愛くて。

俺は白い歯を見せて、笑って見せた。

「・・・ばか・・・」
照れた蘭が小さく呟く、その口調は温かい。




今日のラッキーナンバー9。



そのナンバーが導いてくれた、小さな幸せをかみ締めながら。
俺は明日からの学校生活が、なんとなく楽しみになったんだ。

蘭ちゃんが絡むと、「席替え」ごときで幸せを感じてしまうクドー君です。
私はそんな彼が大好きだし、そうであってほしいな、と思う。マジで。

ってかこれ・・・おさななじ・・・み?

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